はじめに
以下は Gamasutra の Features として公開された記事のうち、原著者に翻訳・公開の許可を得られた記事を Internationalization Force のメンバーが翻訳したものです。
なお本記事は 3 部構成で Part 1 は翻訳済み、Part 3 は英語版公開済みで翻訳これから着手予定です。
また今回も引き続き試験的に本記事(Part1~2)の翻訳メモリ(TMX)も公開いたします。
以下は Gamasutra の Features として公開された記事のうち、原著者に翻訳・公開の許可を得られた記事を Internationalization Force のメンバーが翻訳したものです。
- 原文の著作権等はすべて原著者に帰属します。
- 誤訳、誤植がある可能性があります。発見された場合は当記事のコメント欄にてお知らせいただければ幸いです。
- 本記事の公開を快諾してくださった Lucas Blair 氏に深く感謝します。
- オリジナル記事:The Cake Is Not a Lie: How to Design Effective Achievements, Part 2
- オリジナル公開日:2011年5月11日
なお本記事は 3 部構成で Part 1 は翻訳済み、Part 3 は英語版公開済みで翻訳これから着手予定です。
また今回も引き続き試験的に本記事(Part1~2)の翻訳メモリ(TMX)も公開いたします。
このTMX提供を継続していくことで、日本におけるゲーム業界の用語定着に貢献できれば幸いです。
ご意見ご感想などございましたら Twitter ハッシュタグ #igdajif までお寄せください。今後の活動の励みとさせていただきます。
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ケーキは嘘じゃない:効果的な実績をデザインする秘訣 パート 2
著:Lucas Blair[研究者でありゲームデザイナーでもあるルーカス・ブレア博士が、ゲームの実績デザインにおけるベストプラクティスの定型化に役立つ現代の学術研究の基礎を示す、全 3 回にわたる連載。今回はその第 2 部である。第 1 部はこちら]
始めに、本連載の概括から述べよう。第 1 部で述べたとおり、現在さまざまなテーマを扱った数多くの研究が行われており、それらは実績のデザインの指針となり得る。本連載で、私は現在ゲーム内で実績がどのように用いられているかを分析することで実績デザインの特徴を分類し、それを共有しようと思う。
本課題の目的は、実績のデザインからアクションのメカニズムを抽出することだ。実績についてはこれまでにも、プレイヤーのパフォーマンス、モチベーション、態度に影響するという研究結果が出ている。
今回、分類については可能な限り包括的になるよう努めたが、今後さらなる議論や改訂も必要になるだろう。しかし当面は、実績の可能性を効果的に引き出すために必要となる議論の良い叩き台になると考える。
ではさっそく、今回の内容に入ろう。 第 2 部では、次のコンセプトについて説明する:
- 予測可能な実績と予測不可能な実績
- 達成した実績を通知するタイミング
- 実績の不変性
- 誰が獲得した実績を見られるのか?
予測可能な実績と予測不可能な実績
プレイヤーが実績を獲得した際に表示される通知は、まったくのサプライズの場合もあれば、努力の末にたどりついたゴールの場合もある。達成できる実績をあらかじめプレイヤーに知らせるというデザイン決定だと、プレイヤーはゲームを開始する時点で予測がつくことになる。獲得できる実績をプレイ前から知らせる場合と、プレイ中に突然知せる場合があるが、予測可能な実績と予測不可能な実績はそれぞれ異なる効果をもたらし、どちらもプレイヤーのゲーム体験の向上に活用できる。「予測可能な実績」には、プレイヤーが行動を開始する前から目標を設定できるという利点がある。プレイヤーが自分で目標を設定することには、大別して 4 種の利点があるとされている。以降では、その 4 種について説明していく。第一に、目標を設定したプレイヤーは達成を目指して行動の方針を定め、自らの持つリソースを適切に投入するようになる。これは特定のスキルを向上させることにもつながる。もちろん長く時間をかける、友人に助けを求めるなどの可能性も存在するが。第二に、目標があると「達成までに費やしても良いと思える労力」の量が増える。制作サイドにしてみれば、これはゲームのプレイ時間が増えることに他ならない。
World of Warcraftプレイヤーがメタ実績「Salty(「海の」:これを獲得するには釣り関連の実績を大量に獲得しなければならない)」を獲得するには凄まじい時間を費やさなければならない。私はコレで実績がどれほど「時間泥棒」であるかを個人的に証明してしまった。
第三に、目標を設定したプレイヤーは困難なタスクに直面しても諦めない傾向が強い。目標を設定していないプレイヤーがタスクがきつすぎると判断するとすぐにやめてしまうのと対照的である。第四に、自ら目標を設定するプレイヤーは、その目標を達成するために新たな知識やスキルを身につける。これはゲームの製作者側にとっても非常に重要な要素である。新たなスキルを身に付けたプレイヤーはそのゲームをもっと遊びたくなるためだ。
予測できる実績には、目標設定のメリットの他にも「プレイ開始前にゲームプレイのスキーマやメンタルモデルを作り出す」という利点がある。 プレイヤーはこのスキームを活用して、ゲームの構造と、目標を達成するために行うべきアクションを把握するのである。プレイヤーが新たにゲームを購入した後に実績を眺める行為には、ゲーム全体の理解を深めるという効果がある。実際、スキーマの作成に似た手法は、ユーザーのパフォーマンスを向上する目的でトレーニングプログラムでも活用されている。
そのスペクトルの反対側に位置するのが 予測不可能な実績だ。 ビデオゲームにおいて、予測不可能な実績は一般的ではないが、プレイヤーを楽しませるだけのポテンシャルは秘めている。そんな実績があれば、思い切ったプレイをしようという気にもなるものだ。
この戦略を極限までつきつめたのが「Achievement Unlocked」(訳註:メッセージ「実績が解除されました」の英語版)というタイトルだ。このゲームでは、基本的に何をしても実績が解除されるようになっている。このゲームの開発者は実績の使い過ぎに対する皮肉として作成したのだろうが、「Achievement Unlocked」はプレイヤーが何らかの実績が解除されるかもしれないと考えて「画面中をデタラメに跳んだり走ったりする」ようプレイヤーを実に効果的に導いている。
ベストプラクティス:最初は 予測可能な実績を用意してプレイヤーが目標を設定し、ゲームのスキーマを構築できるようにしておく。 この時、実績の説明文は解除条件を正確に記すようにし、なぜ重要なのかもわかるようにする。予測不可能な実績は、創造的な遊び方を推奨するよう控えめに用いる。
達成した実績を通知するタイミング
実績の獲得後は、当然その事をプレイヤーに通知しなければいけない。通知タイミングには、ゲームがまだ進行中の解除直後に通知する方法と、ある程度の時間が経過して一連のアクションが落ち着いてから通知する方法の 2 種類がある。 即座に通知するか少し遅れて通知するかの判断は、ゲームの種類とプレイヤーの経験レベルを考慮して下さなければならない。「 World of Warcraft」のように実績が解除されたことをプレイ中に通知する手法は、即時フィードバックの一形態と言える。即時フィードバックが学びや効率を向上させることを示す研究は複数ある。計測系の実績はプレイヤーのパフォーマンスと直接関係してくるため、そういった実績を用いる場合には特に重要な要素となる。
ひとつ注意しなければならない点は、即時フィードバックはプレイヤーがゲームに不慣れであるほど有益であるということだろう。プレイヤーがゲームに慣れるにつれてフィードバックを返す時間は遅れるほど良くなる。これは、熟達したプレイヤーにある程度の時間を与えると、自身のパフォーマンスを評価するようになるためである。
また、プレイヤーにゲームをプレイしている最中に実績解除を知らせる行為が押し付けがましいと捉えられるリスクを内包していることも考慮しておく必要があるだろう。通知のせいでフロー状態に入った (あるいは「ゾーンに入った (The Zone)」)ユーザーの邪魔をして足を引っ張ってしまいかねない。
ユーザーがこのような状態にある場合、外部世界は溶け落ち、時間は意味を失い、集中力が高まる。この状態は、一番好きなゲームをプレイしているときに、あなたも体験したことがあるのではないだろうか。
フロー状態にあるプレイヤーはもっとプレイを続けて、もっとゲームを体験したい、というモチベーションが高まっているため、この唐突に突きつけるような通知の方法は理想的とは言えない。
プレイヤーのやる気を削がないようにするため、大量のメンタルマッスル (Mental Mascle、心の筋肉) が求められるゲーム (RTS など) では獲得した実績を通知するタイミングを遅らせている。たとえばプレイセッションが明確に区切れる「StarCraft」のようなゲームでは、実績解除の通知をセッションの間に挿入する傾向がある。
これは遅延フィードバックと同様の機能を果たしているが、これには新しい事を学習する際には記憶力を高める効果があるとされている。これはつまり、新しいゲームで初めておこなったアクションをその少し後に把握するという行為は、それ以降にやり方を思い出しやすいことを意味する。
ベストプラクティス:ゲーム中に明確な「休憩時間」が存在しないゲームでは、即時フィードバック方式で邪魔にならない程度に通知をポップアップさせ、詳細な説明はプレイ終了後に表示する。明確な「休憩時間」があり、さらに多大な集中力を要するようなゲームでは、遅延フィードバック方式を用いたほうが良い。初心者には即時フィードバックが有効で、熟練プレイヤーには遅延フィードバックが有効である。
「Achievement Unlocked」の画面
実績の永続性
プレイヤーは、獲得した実績についてしばらく経ってから振り返ることがある。このような時、「永続的な実績」はプレイヤーに過去に体験した栄光を思い返させるが、永続的でない実績は初回通知時にしか通知されない。この永続的な実績には、「デジタルな褒賞品」と「保存されたリスト 」の 2 種類がある。これら 2 種は基本的に、それぞれ実績獲得時に受け取る報酬と実績の説明をリスト化したものを示す。そもそもデジタルアイテムは仮想世界にしか存在しないため、それを「手にする」感覚というのは抽象的な概念である。しかし報酬として与えられるペットやコスチュームといった「デジタルな褒賞品」は、実在する物と同じように手で操ったり、他のプレイヤーから羨望のまなざしを集めたりできる。
ただし現実世界で用いられる報酬の仕組みをそのままデジタル世界に持ち込む場合には、過剰使用に気を付けなければならない。報酬はプレイヤーの内発的動機づけ (個人が何かを行おうとする欲求) や自己決定力を弱め、さらに再びタスクに戻ってくる可能性を下げるからだ。
一方で、Xbox LIVE に代表されるような獲得済み実績の保存リストの仕組みは、獲得してから長時間が経った後でも振り返ることができる。過去をこのように振り返ることはプレイヤーに自分の経験を思い出し、より深い理解を促す。
一時的な実績、例えばFPSにおける「Unstoppable」や「God-Like」(マルチプレイの連続キルで表示されるテキストなど) は声による応援に似ていると言えるだろう。永続的な実績と異なり、このような応援は内発的動機付けを強く後押しする上に、プレイヤーの自己決定感を阻害しない。この実績は記録に残らず、表示されなくなると共に失われる。
ベストプラクティス: 獲得した実績はリストのような形式で保存して、プレイヤーに確認する機会を与える。 デジタルな褒賞品は強い動機付けになるが、達成後はプレイヤーを惹きつけなくなる。
誰が獲得した実績を見られるのか?
マルチプレイヤーやシングルプレイヤーモードでプレイヤーの得た実績は他のプレイヤーに見える場合がある。どの情報が共有されるかはゲームによって異なり、中にはプレイヤーに判断をさせないゲームもある。こういったシステムはプレイヤーの実績を完全に公開する。一方で StarCraft II や FarmVille に実装されている実績設定は、プレイヤーが公開する実績を決定できる。仲間意識は人がゲームを遊ぶ大きな理由の一つである。獲得した実績を他のプレイヤーに向けて可視化すると、他のプレイヤーに示すために実績を狙うようになる。他者から認識されることをインセンティブのように利用すると、プレイヤーのパフォーマンス向上につながるというデータもある。
獲得された実績を 可視化することにより、プレイヤーの仲間にそれを見て、同じ実績を得たいと思わせる事ができる。その結果、労力を費やして最終的に報酬 (訳注: Reward、ここでは獲得した実績それ自体) を獲得すると、プレイヤーは自己効力感 (Wikipedia)を高め、またゲーム内の他のタスクもクリアできるはずだと自信を築くことができる。
可視化された実績はゲーム世界の履歴書のような存在にもなる。他プレイヤーの実績から良いチームの仲間になる可能性や、助けを求める相手となる可能性が見えるからだ。
ただし、コミュニティに向け可視化した実績にマイナスとなる可能性もまた存在する。実績が記録されて履歴書のような役割を担うようになると、デザイナーの意図に反してプレイヤーを除外してしまう可能性が生じるのだ。
たとえば MMO でよく観測される事例として、パーティに誘うプレイヤーの条件として特定の実績を達成していることを要求する事がある。これでは「プレイヤーが経験を積むには経験がなければならない」という矛盾した問題を突きつける結果になってしまう。また別の問題としては、他者から認識されることを動機づけ要素として用いてしまうと、注目を得られなくなったり実績が弾切れになった後にパフォーマンス向上が見込めなくなる点がある。
ベストプラクティス:獲得した実績を他のプレイヤーに公開することは強力な動機付けになりうる。また、経験の浅いプレイヤーが「経験が不足していること」が原因で他プレイヤーから疎外されないようにするため、他プレイヤーが別のプレイヤーを助けることで解除される実績を用意する。プレイヤーの動機を高め、またプレイスタイルを強調するような実績をいくつか提示する。
本トピックの詳細に関する資料:
- Kulik, J. A., & Kulik, C. C. (1988). Timing of feedback and verbal learning. Review of Educational Research, 58(1), 79-97.
- Schooler, L.J. and Anderson, J.R. (1990). The disruptive potential of immediate feedback. The Proceedings of the Twelfth Annual Conference of the Cognitive Science Society, Cambridge, MA.
- Csikszentmihalyi, M. (1975). Play and intrinsic rewards. Journal of Humanistic Psychology, 15(3), 41-63.
- Fu, F., Su, R., & Yu, S. (2009). EGameFlow: A scale to measure learners' enjoyment of e-learning games. Computers & Education, 52(1), 101-112.
- Metcalfe, J., Kornell, N., & Finn, B. (2009). Delayed versus immediate feedback in children's and adults' vocabulary learning. Memory & Cognition, 37(8), 1077-1087.
- Greene, D., & Lepper, M. R. (1974). Effects of extrinsic rewards on children's subsequent intrinsic interest. Child Development, 45, 1141-1145.
- Dickinson, A. M. (1989). The detrimental effects of extrinsic reinforcement on 'intrinsic motivation.'. The Behavior Analyst, 12(1), 1-15.
Part2 は以上です。Part3 もお楽しみに!
翻訳担当メンバー:
米田 健(ヨネダ・ケン)
和菓子と抹茶を愛する翻訳・通訳で生計を立てているアメリカ、カルフォルニア州サンタクルーズ市在住のバイリンガル。
学費を苦心しつつ本業であるはずの大学で広く浅く様々な分野を無節操に受講中。専門は雑学。卒業は未定。
アウトドアと料理好きで、ハイキング、ランニング、ロードサイクリング、マウンテンバイク、ロッククライミング、サーフィンと地元の自然を日々楽しんでいます。次はクロスカントリースキーと雪山登山に挑戦予定。
ゲーム関係は、IGDA Japan i18n Force (Internationalization Force)にて活動中。好きなゲームはボードゲームとCo-opマルチ系です。オススメや連絡はツイッター@akatombo、またはkyoneda@ninjatranslator.netまでご連絡ください。
学費を苦心しつつ本業であるはずの大学で広く浅く様々な分野を無節操に受講中。専門は雑学。卒業は未定。
アウトドアと料理好きで、ハイキング、ランニング、ロードサイクリング、マウンテンバイク、ロッククライミング、サーフィンと地元の自然を日々楽しんでいます。次はクロスカントリースキーと雪山登山に挑戦予定。
ゲーム関係は、IGDA Japan i18n Force (Internationalization Force)にて活動中。好きなゲームはボードゲームとCo-opマルチ系です。オススメや連絡はツイッター@akatombo、またはkyoneda@ninjatranslator.netまでご連絡ください。
福市 恵子(フクイチ・ケイコ)
2004年からフリーで活動しているゲーム翻訳者(英日)。Xbox 360ゲーム「Alan Wake」「Mass Effect 2」でクレジット掲載。その他、幅広いジャンルのゲームタイトル多数の翻訳をお手伝いしております。文芸翻訳コンテストで最終選考に残った経験あり。企業 Web サイトなどのマーケティング翻訳も手がけています。現在シナリオ ライティング勉強中。ゲーム翻訳のお仕事のご相談は、k.fukuichi@gmail.com までお気軽にどうぞ
簗瀬 洋平(ヤナセ・ヨウヘイ)
北海道札幌市出身。埼玉県川口市育ち。電気通信大学電子情報学科出身。1996年にゲーム業界に入りデバッグのアルバイトからスクリプター、シナリオライターを経てゲームデザイナー。日本コンピューターシステムメサイヤ事業部、株式会社キャリアソフト、株式会社コーエーネット、株式会社ソニーコンピューターエンターテインメント、株式会社アトラス、株式会社ゲームリパブリックを経て現在株式会社サイバーコネクトツー在籍。シナリオ、システム、レベルの一体化とAIによるインタラクション豊かなゲームデザインを目指して開発をしています。
矢澤 竜太(ヤザワ・リュウタ)
元フリーランス英日ゲーム翻訳者、現在はゲーム開発業界一年生でローカライズ業務に奮闘中。IGDA Japan i18n Force (Internationalization Force) 代表。
愛のあるゲーム人を応援するためボランティア翻訳してる。今年も CEDEC アツかった。今度は GDC でローカライズ成功事例の講演だ (目標)! / Twitter: lye_
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