2013年10月3日木曜日

スカラーシップ感想文2013_07

本年私は、IGDA日本のご厚意により CEDEC(2013年8月20-23日、横浜)に参加する貴重な機会を得ることができました。奈良先端科学技術大学院大学の修士コースでゲームにおけるナラティブを研究する者として、あるいはひとりの西洋人として、日本のゲーム業界が持つ知見を実際の開発者から聞くことのできる CEDEC は非常に有益な機会でした。このような知見は一般的な外国人が見ることができるものではありません。ビデオゲームを世界的な産業、メディア、そして文化として確立させた各社の先輩方の知見を自分の目と耳で直接感じられた今回の機会は、極めて有益なものであったと感じます。

しかし私自身にとってそれ以上に大きな意味があったのは、ゲーム産業とゲームアカデミクスの関係性をより深く理解できたことでした。私にとって産業としてのゲームはCEDECに参加するまで全く知ることのなかった世界であり、一方でアカデミックな部分はこれを執筆している時点では現在進行形で深く関わっている分野です。両者間には大きな、そして多くの違いがあります。今回のスカラーシップでは業界のプロフェッショナルと直接話す機会を得られ、具体的な違いを理解することができました。そこから得られた知識は、以後の研究の方向性を現実的なものとする上で役立つだけでなく、日本のゲーム産業に就職するためにも極めて有益であったと感じます。このレポートでは、私個人がこの経験を通じて得た日本のゲーム産業とゲームアカデミクスに関する考察について記述します。

前述のとおり、私の現在の研究対象はゲームにおけるナラティブです。その中でも特に注力しているのがゲームにおける文芸的分析の手法を模索する研究です。自分の研究における最終的な目標はゲームのストーリーを分析する上での新しい方法を確立させることです。自分は元々文学を研究していて、そこでは物語の分析方法が確立されていましたが、ゲームのインタラクティブなストーリーにおける分析は新分野でとても挑戦のしがいがあります。ゲームのストーリーに対し、現実的で有意義な解釈方法が多数存在することを提示するのが私の望みです。そして、それを通じて定性的な評価の手法を生み出し、ゲームが文化的価値を持つ強力なストーリーテリングのできるメディアであることを示したいと考えます。

そのような経緯から、消費者、プレイヤー、批評者としてゲームを理解するだけでなく、新たな芸術の形である「ストーリーとインタラクティブ性を備えたゲーム」の製作プロセス、デザインや製作に用いられるツールおよび手法についても理解することが重要でした。そのためCEDEC への参加は有益であっただけでなく、必須でもあったと言えると思います。

参加前まで、私はゲームテキスト、研究、アカデミアに囲まれて暮らしていました。しかしスカラーシッププログラムはそんな私の目を初日から覚ましてくれました。プログラムの初日にはスタジオツアーが実施され、プレミアムエージェンシーユビキタスエンタテインメメントグリーといった本物のゲーム関連会社を訪れて短いながらも有意義な時間を過ごすことができました。

最初に訪れたプレミアムエージェンシーはゲーム、アニメ、映画、その他の新進マルチメディア(ARイベントなど)まで広範な分野でCG業務を担当している企業です。個人的な見解としては、プレミアムエージェンシーはコンピューターグラフィックという近年極めて人気の高いメディアの製作に欠かせない、極めて有望かつ汎用性の高いビルディングブロックを事業の中核に据えたビジネスモデルを持つ企業の好例だと考えます。市場傾向の変化に強く、また収益獲得の手段を多数有する同社は、今後も潜在的な市場生存能力を保ち続けるのではないでしょうか。また企業規模も大きすぎず小さすぎず快適なように見えました。実に有益で、初日のスタートを切る上で大変素晴らしい訪問となりました。

次に訪れたユビキタスエンタテインメントは比較的小規模な企業でしたが、個人的に社員の皆さまはとてもリラックスして幸せそうに見えました。この点については個人的には驚いた覚えがあります(当時の私は、企業でそのような姿をみることはあまりないと考えていました)。皆さんとても充足した表情で、社内の雰囲気も明るかったように記憶しています。また同社では、経営部門の方から enchant.js(ゲーム制作用のJavascript/HTML5 ツール)、Enchant Moon デバイスといった現在進行中の主要プロジェクトについて見せていただく機会も得られました。これらの革新的なプロダクトを拝見し、個人的にはまるで同社は半分ラボ、半分会社のようだ、と感じたことを覚えています。また同社オフィス内には月や宇宙探索を想起させるイメージがちりばめられており(ロビーにはサターンVの大型モデルまで展示されていました)、同社は実に好奇心と探究心に満ちていると感じました。個人的には、初日に訪問した 3 社のうちで一番応募したいと感じたのは同社でした。その最大の理由は、同社の探究と革新を重んじる雰囲気にあったと言えると思います。

最後に訪問したのはグリーでした。同社はそれまでに訪問した2社と比較して圧倒的に大規模でした。またプレミアムエージェンシーと同じく、グリーのアプローチもまたきわめて汎用性が高く、多様性の面でもゲームだけでなくプラットフォームやネットワーク、グッズ展開やライセンシングなど多岐にわたっていました。これらは同社にとってきわめて明確かつ有効なビジネスモデルであると考えます。一方で、その有力さと成功の裏には「大企業現象」も存在していると思います。グリーは間違いなく大企業です。海外にもオフィスがあり、東京オフィスだけでもおよそ 2000名の社員が在籍しています。その事実と企業理念/倫理が組み合わさった結果、私が現在在籍している研究機関と類似する労働環境を感じるところがありました。たとえば、休憩中もカフェテリアで仕事を進めている人がおられたように見受けられました。こういった現象は指示や規則といったものに起因するのではなく、遅らせられない厳しい納期の影響であると考えます。なお私は、決してこれらを否定的な点として述べているのではなく、純粋に「ビジネスの原理」という文脈で述べています。しかしこの点を考慮したうえでも、やはりグリーには大変な感銘を受けましたし、魅力的な企業であるとも感じています。多数の企業から構成されるゲーム業界において、最大クラスの企業を訪問できたことに大変感謝しております。

今回スタジオツアーに応じてくださった各社が、そのオフィス環境、制作における哲学、従業員数、活動などさまざまな点で大きく異なる企業だったことは極めて興味深い点でした。1日という短い時間で、そういったさまざまな点を比較できたのはゲーム産業の実情を理解する上で非常に貴重な経験でした。これらの違いを理解することは、特にゲームが既存の伝統的メディアと異なりクリエイティブ性、経済性、ソーシャル性の各領域が融合ないし相乗効果を発揮することで作られるものであること、そして優れたゲームを制作するには、人生の無数の側面から得られる専門技能と創造性を集結させる必要があることを真に理解する上で非常に重要でした。自らそれを目にしたことで、私自身もゲームを単なるエンターテインメントの一手法としてではなく、人間の創造性、革新性、技術を集結させた結果として生まれる素晴らしい成果物なのだと真の意味で理解するべく視野を広げたいと感じるようになりました。

またCEDEC自体も初日の経験を補強するかのように充実した時間で、残りの日程も充実した時間を過ごすことができました。日本のゲーム企業を3社巡る体験はすでに十分すぎるくらいでしたが、CEDECはそれでも比較にならないほど濃密な体験でした。多数の企業が参加し、各社が自らの経験と知見を発表し、それを共有する場であったからです。私が個人的に特に興味をひかれたのが遠藤雅伸氏(「ゼビウス」のクリエイター)と簗瀬洋平氏(スクウェア・エニックス)による「ゲームにおけるナラティブとストーリーの違い」についてのセッションでした。特に興味深かったのは、両氏が欧米において浸透してきているゲームにおけるナラティブという概念をベースとして日本のゲーム業界におけるナラティブについて講演していた点でした。実際、本講演は(私自身を含む)聴講者がゲームでナラティブを使う、ゲームに内包させる、あるいはゲームをナラティブで構成するにはどうしたらいいのか、そしてその長所と短所は何かを考える良い契機になったのではないかと思います。個人的に本セッションは、ゲーム開発者が学術的な内容に対して真剣に対峙する機会としてのCEDECの可能性を示す好例であったと考えます。また先述の考察は、同じくゲーム業界で活躍するプロフェッショナル、三宅陽一郎氏(スクウェア・エニックス、リード AI リサーチャー)が 2011年のDiGRA Japan Conferenceで講演された内容や、本年CEDECで講演された藤田教授(東京芸術大学)の研究についても同様と考えます。こういった研究者/産業界のプロフェッショナルの方々のご活躍は、私自身がどのように産学連携をしていけるかを考える上で素晴らしい気付きをもたらしてくださいました。

CEDECにてこれらセッションを拝聴できたこと、そして産学連携に相互活性化を促す大きな可能性があることに気付けたことは素晴らしい体験でした。現在ゲーム業界が取り組んでいること、業界の方々の示されたさまざまなビジョンや方向性をこの目で見られたことは本当に刺激的な体験でした。スタジオツアーとCEDEC、そしてメンターの方々との充実した対話という経験を通じ、私はゲーム業界とゲームアカデミクスは互いに協力し合い、高め合っていけると確信するに至りました。

本稿は、今回のスカラーシップで私が学んだ最も重要なこと2つを記して終わりにしようと思います。ひとつはゲーム業界とアカデミクスの展望は明るいということ、ふたつめは産学連携の相乗効果を通じてゲームというメディアをさらに進化させていきたいというモチベーションが得られたことです。産業界の現状を理解できたことで、今後は私自身の研究もより精度の高いものにしていけると思います。また同時に、優れたゲーム研究は新しく有効な手法やツールを提供することで、ゲーム業界で働くクリエイターの方々を支援でき、その結果としてゲームデザイン/制作に革新をもたらせると信じます。今回のプログラムを通じて私が感じ取ったスピリットは「産、学どちらに属しているかは関係ない。どんどんゲームを革新していこう」です。最後に、私を含むスカラーを支え、導いてくださった小野憲史氏と藤原正仁氏に心より感謝いたします。

クリストファー・ヤップ/奈良先端科学技術大学院大学


From August 20th-23rd of 2013, I was granted the unique opportunity to attend the CEDEC conference in Yokohama, Japan, via the IGDA Japan Student Scholarship.  As a Master's course student at Nara Institute of Science and Technology researching Narrative in Games, and as a Westerner, I found that this opportunity was especially rewarding because it offered an insider's perspective into the Japanese Game Industry. Such perspectives are hard to come by for foreigners at large, and I am grateful for the chance to have witnessed first-hand the inner workings of the very companies and communities which defined the video game as an industry, as a medium, and as a cultural force of global society.

But even more than this, I believe that for me, the most important insight I gained from this opportunity was a deeper understanding of the relationship between the worlds of the Game Industry (a world that was brand new to me until CEDEC) and Game Academics (the world in which I am at the time of this writing heavily entrenched). There are major differences, that much was to be expected. But seeing and understanding those differences by having the chance to speak directly with industry professionals was particularly intriguing and fruitful for a variety of things, such as new or more refined research direction to realistic tactics to landing a job in the Japanese Game Industry. The focus of my report on CEDEC 2013 will be on these insights I gained regarding the Japanese Game Industry and Game Academics.

As mentioned prior, my current research focus is Narrative in Games, and in particular, I am investigating ways to perform literary analyses of narratives found in games. The long term goal of my research is to add to the existing body of work on Games as an art form, as subjective works of art that have aesthetic value on many levels simultaneously. I would like to show that there are many viable and meaningful ways of interpreting the stories found in Games. In this way, I wish to help to qualify games as a culturally-significant and powerful storytelling medium.

As such, it is important for me to not only understand games as a consumer, player, and critic, but also to understand the processes by which this new digital art form is crafted, how the tools and methods of the trade inform the design and creation of games with stories and methods of variable, interactive storytelling. To that end, my attendance at CEDEC was not only helpful, it was essential.

Until this time, I have been dwelling exclusively in the world of game texts, research, and academia. Right from the very start of the scholarship program, CEDEC was indeed a wake-up call. On the very first day we had a whirlwind studio tour where we all received a very small but meaningful look at the real game companies of Premium Agency, Ubiquitous Entertainment, and GREE.

First up was Premium Agency, which handles CG work for a variety of related fields ranging from games to anime, cinema, and other multimedia ventures such as Augmented Reality events. To me Premium Agency seemed to be a very good example of a company that has based its business model on a very potent and versatile building block used to create many of the most popular mediums in modern day: computer graphics. As such, they have much potential to survive market and trend changes and many paths of revenue. The size of the company seemed to be a comfortable middle size, and it was a very informative and inviting start to the day.

Next, we visited Ubiquitous Entertainment which was a comparatively smaller company, but in particular, the impression that I got at Ubiquitous Entertainment was that the employees seemed very relaxed and happy. I found this somewhat surprising (actually, thinking back on it now, I suppose I probably do not see this very often). The staff seemed to be content and the atmosphere was noticeably light. Additionally, the management gave us a preview of the major projects that they are working on such as enchant.js (a powerful Javascript/HTML5 tool for game creation) and the Enchant Moon device. These innovative products indicated to me that this company was part-lab, and part-company. There seemed to still be an air of curiosity and exploration at this company, partly reinforced by the imagery and constant reference to the moon and space exploration scattered throughout the company premises (there is even a large model of the Saturn V rocket in the lobby). I felt that out of the three companies we toured that day, I would most likely apply to work for Ubiquitous Entertainment simply because of their spirit of exploration and innovation.

Lastly, we visited GREE. This company was very different from the two studios we visited prior, in that it was by far the largest and most successful of the companies. Like Premium Agency, I got the sense that GREE's success comes from their approach to business which is very versatile, branching into not only games but to platforms, networking, and merchandising and licensing. It is a very clever business model which has evidently plaid off for GREE. Though, with such power and success also comes the "big company phenomenon." GREE truly is a large-scale company, with overseas offices and approximately 2000 employees at their Tokyo office alone. That, coupled with their work philosophy/ethic, appear to result in a workplace environment that resembles my current research institution. People seemed to be even working while on break in the cafeteria. I gather that this phenomenon is by no means a mandate or rule, rather that it is a function of having firm and fast-approaching deadlines. This is not to say that this is a negative thing, as it is the nature of business. Rather, I do find GREE both impressive and intimidating in equal measure. I am grateful to have been able to see this large-scale end of the game industry spectrum as well.

It was considerably intriguing to note that the studios chosen for the studio tours were all very different from each other in many aspects, ranging from differences of work environment, creation philosophy, number of employees, and production activities. Being able to compare all of these aspects in one day was valuable for understanding the real landscape of the game industry. Specifically, seeing all of these differences is important for understanding that unlike much of the conventional media that has preceded it, Games truly are a coalescence and/or synergy of a myriad of creative, economic, and social disciplines, and the creation of a good game requires the collection of expertise and creativity from nearly every aspect of life. Having seen as much with my own eyes, I realize that I, too, must widen my perception further in order to understand Games not simply as an instrument of entertainment, but as a potent symbol of the greatness that can result from the trinity of human creativity, innovation, and technology.

As if to reinforce this initial realization on Day 1, the CEDEC conference commenced in full force from the following day and lasted until the end of the week. If I had thought that seeing three Japanese Game Studios was overwhelming, it was nothing compared with seeing the assemblage of companies at this event, each with their own stories to tell and insights to share with each other. In particular, I was intrigued to see the session led by Masanobu Endo (the creator of Xevious) and Yohei Yanase (Square Enix) about the difference between the concepts of "Narrative" vs. that of "Story" in a game. It was very interesting to see that, based on the way the concept of Narrative in Games had been picking up in the West, that the presenters took it upon themselves to encourage the consideration of this topic in the Japanese game industry. In fact, it became apparent that throughout their discussion, the audience (myself included) was given much to ponder when it came to understanding how games can use/contain/be composed of Narratives, and in what particular ways these could each by both positive and negative. This session was, in my opinion, a very good example at the CEDEC conference of the ways that game industry professionals are seriously considering academic matters in the creation of their games. This very sentiment has been echoed also by other researchers working in the industry, such as Youichiro Miyake (Lead AI Researcher at Square Enix) at the DiGRA Japan Conference in 2011, and through the research efforts of Professor Yoshikazu Fujita (Tokyo Art University), who also presented at CEDEC this year. These researchers and industry professionals gave me very good ideas and examples of how to liaise between the realms of academics and industry to good effect.

Having the opportunity to see such sessions at CEDEC and to realize the great potential that the Academic world and the world of Industry can offer each other was inspiring. In fact, being able to see the things that the Game Industry is working on currently and the various visions and directions they are forming is inherently a very exciting thing. After being able to thoroughly experience the CEDEC conference, speaking at length with the mentors, and experiencing the studio tours, I firmly believe that the Game Industry and Game Academics can truly benefit from each others' progress.

To that end, I would like to state that the most important things that I took away from this IGDA Student Scholarship to CEDEC 2013 experience are two-fold:  1) a positive outlook on the future of both the industry and academics, and 2) motivation to work towards developing this medium even further through the synergy between the industry and academic research. By understanding the workings of the industry, I can improve and refine my research efforts. Concurrently, good games research can assist in giving new and potent methods and tools to game creators in the industry and subsequently lead to innovation for game design and creation. And so in closing, I can summarize the spirit of this experience thusly: whether you are from academia or industry, let's innovate and inspire through games! My most sincere and special thanks to Mr. Kenji Ono and Mr. Masahito Fujihara for constantly offering help and guidance to myself and all of my fellow IGDA CEDEC 2013 Student Scholars.

Christopher Yap/Nara Institute of Science and Technology

*日本語翻訳 IGDA日本 Translated by IGDA Japan

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