はじめに
以下は Gamasutra の Features として公開された記事のうち、原著者に翻訳・公開の許可を得られた記事を Internationalization Force のメンバーが翻訳したものです。
- 原文の著作権等はすべて原著者に帰属します。
- 誤訳、誤植がある可能性があります。発見された場合は当記事のコメント欄にてお知らせいただければ幸いです。
- 本記事の公開を快諾してくださった Lucas Blair 氏に深く感謝します。
- オリジナル記事:The Cake Is Not a Lie: How to Design Effective Achievementsby Lucas Blair
- オリジナル公開日:2011年4月11日
なお本記事は 3 部構成で Part 2、Part 3 も公開されており、そちらについても翻訳を進めていきます。
また今回は試験的に本記事の翻訳メモリ(TMX)も公開いたします。
ご意見ご感想などございましたら Twitter ハッシュタグ #igdajif までお寄せください。今後の活動の励みとさせていただきます。
ケーキは嘘じゃない:効果的な実績をデザインする秘訣
著:Lucas Blair
[新シリーズにおける最初の記事は、Ph.Dでありゲームデザイナーもあるルーカス・ブレアが学術研究を用い、ゲーム中の実績デザインのための最良な実践方法を定式化したものだ。]
ゲーム開発において、実績に関する議論は活発に行われています。実績に対するプレイヤーの感覚は、無関心から強迫観念に到るまで幅広く、デザイナーはどちらに寄せるかを迫られる事になる。それが物議を醸しているかどうかはさておき、実績は確実に存在するのだから、デザイナーはそのポテンシャルをフルに引き出してやるしかない。実績というものをプレイヤーに好意的に受け止めて欲しいと思ったら、ゲームデザインの過程で十分に配慮しなければならない、後付ではダメだ。
多くの場合、実績はゲームの完成間近になってからあわてて加えられている。不幸な事に、出来そこないの実績には、注意深く作られたゲームメカニクスの良さを損なってしまう。
だが、ゲームの他の要素と一緒にデザインすれば、デザイナーはユーザー体験とゲーム全体の品質をより高めるために実績を使う事ができるのだ。
実績デザインの指針に関しては数多くの研究が行われており、実績デザインに関する指針と成り得る。このシリーズで私は、実際のゲームにおいてどのように実績が用いられているかを解析する事により、実績デザインの特徴を分類し、共有していくつもりだ。
本課題は、実績のデザインにおけるアクションのメカニズムを純粋に抽出することを目的としている。なお、実績についてはこれまでにもプレイヤーのパフォーマンス、モチベーション、態度に影響を与えるとする研究結果が公開されている。
執筆に際しては可能なかぎり包括的に分類するべく努めたが、公開後には議論や改訂も必要になるであろう。ただ現時点においては、実績の潜在的可能性を効率的に引き出そうと考える諸氏にとって良い議論の叩き台になるのではないかと考えている。
第1部では、次のコンセプトについて言及していく。
- 計測系の実績
- 完了系の実績
- 楽しいタスクと面白くないタスク
- 実績の難易度
- ゴール志向
計測系実績と完了系実績
最初に取り上げる分類項目は計測系実績と完了系実績だ。この2種類の実績は、報酬の対象とするプレイヤーの行動が全く異なる。
計測系実績とは、プレイヤーがあるタスクで一定の成績を達成した場合に与えられる実績だ。この成績は他のプレイヤーや過去の自己自身、あるいはゲームデザイナーが設定する目標と比較できる。
このタイプの実績には、たとえば「Angry Birds」のスター数評価がある。これはステージクリア時の手腕を評価して星の数で表しているものだ。計測系実績はそもそも何らかの評価に基づいて提示されるものなので、「ゲームからのフィードバック」を示せるという特長がある。訓練や教育の場におけるフィードバックの活用に関する論文でも、「自身の行動を省察し、自らの設定した目標を達成するために活かせる」ため、フィードバックは有益であると記されている。
こういった反応(訳註:フィードバック)はプレイヤーの自己有能感を高め、結果として内発的動機づけをも高めるのだ。この「内発的動機づけ」という用語は、本質的なやりがいを持つタスクを説明する際に使用される用語である。そして自己有能感が高まるということは、別のデザイン上の決定(例えばリワード多用によるユーザーの内発的動機の低減)が及ぼす否定的な印象が薄くなるということでもある。
一方で完了系実績はプレイヤーが「どうやって」タスクを完了したかについては一切触れず、タスクを「完了」したことを褒める。この完了系実績は「成績要件つき実績(performance contingent achievement)」と「成績要件なし実績(non-performance contingent achievement)」という 2 つのサブカテゴリに分けることができる。その名のとおり、「成績要件つき実績」は達成するために一定の技量が必要であり、対して「成績要件なし実績」は「そこにいること」に対して贈られる実績である。
成績要件つきの完了系実績は(「World of Warcraft」で初めてダンジョンをクリアした時にもらえる実績など)、報酬を付帯的な動機付け手段として使う手法と捉えると分かりやすいかもしれない。この手法は一部のインセンティブプログラムなどで優れた結果を出している。ただし、この種の報酬を大量に提示しすぎるとユーザーの自律性を下げてしまい、結果として内発的動機づけまで下げてしまう可能性もあるので注意が必要だ。
またある報酬にしきい値が設定されるということは、その閾値がユーザーにとっての擬似的な上限として機能する場合があることでもある。報酬を得てしまった後も同じタスクを続けるユーザーは少数だからだ。ゲーム開発者にとってみれば、これはすなわち「やりこみ度(Replayability=再プレイ性)」を意味する。また報酬を用いるということは、プレイヤーがリスクを取らないようになるということでもある。プレイヤーは報酬が用意されていればできるだけそれを受け取りたいと考えるからだ。ビデオゲームのデザイナーが創造力溢れるプレイや実験的な試みを引き出すような報酬をデザインするのもこの点と関係があるのだろう。
ゲーム内イベントに参加するともらえるコスチュームやペットは「技術的要件なし実績」に分類されるもので、内発的動機づけには悪影響を及ぼさない。ただしこの種類の実績はプレイヤーの成績 (Performance) を評価しないため、ソーシャルなテコ入れ (Social Reinforcement) がセットになっていない限り、プレイヤーを獲得に向けて促すような力を持たない。
ベストプラクティス:フィードバックを利用して内発的動機づけを強化するには、完了系実績でなく計測系実績を用いる。
楽しいタスクと面白くないタスク
実績はタスク、または一連のタスクを完了させると得られる物だ。プレイヤー視点からすると、獲得するのに必要な行動には楽しい物から全く面白く無い物まである。タスク自体が面白くないのであれば、そのタスクに対して与えられる報酬の構造は、「プレイヤーが面白いと感じるタスクに対する報酬構造」とは異なるものにしなければならない(訳註:純粋に楽しいタスクと、それ自体は楽しくないタスクでは、報酬のデザインも変えなければならない、ということ)。
「面白くないタスク」(MMOのトレードスキルなど)は、実績のような外発的動機付けを行う事でプレイヤーの興味を引き付ける事ができる。プレイヤーはそもそもこういった行動を自主的に行わないため、報酬を与える事は内発的動機を阻害しない。
面白くないタスクに興味を持ってもらう方法には、大きく二つの方式がある。ひとつは実績の文面でそのタスクの価値を知ってもらう方法だ。
ここでは例として「Deadliest Catch: Sea of Chaos」(危険な海での漁業ゲーム)の『ライフセーバー』実績を紹介する。これは船員を救助すると得られる実績で、名前から人を助ける事は重要だと認識できる。
二つ目の方式はタスクにルールや遊び心といったファンタジーを追加することだ。実績は根本的に考えるとこの方式になる(訳註:追加説明:食器洗いをしても現実には食器洗いの実績なんて無い。でもルールと追加して 20 分以内に完了、そしてその報酬に「食器マスター」実績をを提供する事で食器洗いへの外的動機付けを行う。この場合実績は虚構という意味のファンタジーである)。
「面白いタスク」は外部からの動機付けが無くともプレイヤーが自分で行う行動であり、報酬を与える必要はない。プレイヤーは自主的にタスクを行うので実績は控えめに与えるべきである。特に完了系実績は控えたほうがよい。
実績はプレイヤーの注意を人工的にタスクへ向けるためでなく、重要な戦略や身につけるべき技術に目を向ける為に使うべきだ。このような意識を持って実績をデザインすれば、実績はプレイヤーの能力を伸ばす枠組みとして、最善の解決策へのヒントを与える形とすることができる。
成功例としてStarCraftIIの「The Flying Heal Bus」(空飛ぶ回復バス)がある。この実績はプレイヤーに特定のユニットをより効果的に使ってもらう効果があったといえる。
ベストプラクティス:プレイヤーが面白くないタスクをすることには報酬を出し、面白いタスクにはフィードバックを出す。面白いタスクの実績は興味を導く形にする。
実績難易度
実績の達成難易度はデザイナーから 2 回に分けて調整される。第一に実績はプレイヤーが現実的に達成できる難易度でなければならないが、難易度が低すぎてもいけない。ほどよい難しさを設定することが肝要だ。 2 度目は、プレイヤー自身の技能を考慮する段階だ。この時、タスクを目前にしても自分ならば達成できるだろうとプレイヤーが自信を持てるような状態であることが望ましい。
実績はプレイヤーにとって挑戦であり達成が難しい程度の目標を提供すべきである。程よい難易度の設定はプレイヤーの能力を伸ばすだけでなく、達成感を提供するからだ。難易度が高すぎるとプレイヤーは実績を無視してしまい、低すぎると達成感が得られずに形骸化する。実績デザインのセオリーとしてあるのがゲームをマスターしたプレイヤーにゲームに直接関係が無い二次的な目標を提供することである。
またプレイヤーの自己評価はゲームデザイナーにとって考慮すべき点だ。プレイスキルの自己評価が高いプレイヤーは、ゲーム内で自信を持てるようになる。プレイヤーの自信は目標達成へ向けられる熱意となり、プレイヤー独自の攻略方法構築や利用、そして好意的でないフィードバックに好意的な反応をだす(訳註:具体的には自信を持ったプレイヤーはゲームを最後まで終わらせようと頑張る。ゲームの出す難関の攻略方法を考え、色々試しては乗り越えていく。そして、ゲーム内で死んだり、減点されてもそこで諦めずにプレイをし続ける。根底には自分にはできる、という自信がプレイを支えているのである)。
プレイヤーの自己評価と自信に影響を及ぼすのは4つの要素だ。一つ、プレイヤーの能力。二つ、周りの成功例。三つ、褒める事。そして四つ、プレイヤーの感情。一つ目はプレイヤーの能力だ。能力が高いほど自信になるが、一方で初心者を放置しては駄目だ。初心者、中級者、そして上級者にそれぞれ合わせた実績を用意する事でプレイヤーの成長を促すことで、プレイヤーの自信を育てる事に繋がるのである。
二つ目はプレイヤーの周りの人が成功することだ。または擬似的に経験することでも自信につながる。特に同じ程度の能力の他プレイヤーが出来ることをみせる事は効果的だ。自分にもできる、という考えに繋がり、プレイヤーの挑戦を支えてくれる。実例としては、オンラインゲームのリーダーボード、またはOnLiveの「Brags」公開プレイ動画システムがある。
褒める、という事は単純かつ重要だ。GuitarHeroの「50 NoteStreak!」(50 コンボ)や格闘ゲームのコンボを決めた時の「Excellent!」といったメッセージはプレイヤーを褒めるシステムである。最後にプレイヤーの感情がある。これはプレイヤーのストレス、健康状態、プレイ時の感情等を含めた総合的な状態を示す。
ベストプラクティス:実績には適度な難易度を設定してプレイヤーの楽しみと能力を最大限引き出す。実績の言葉遣いとインタラクションをはプレイヤーの自信を伸ばすようにデザインする。
ゴール志向
実績はプレイヤーのゴール志向も考慮してデザインする必要がある。プレイヤーは自分で打ち立てる目標に向けてゲームをプレイするため、ゲーム体験は人によって異なるからだ。ゴール志向は成績型(パフォーマンス)と技術習得型(マスタリー)の二種類に分類可能だ。成績型プレイヤーは他人からの成績評価を気にかけるが、対して技術習得型は自分のプレイ能力を向上させる事を気にする。
現存のゲームの大半はクリアタイムやポイント等の直接的な成果を重視した成績型が多い。しかし、このようなゲームスタイルに惹かれるプレイヤーはスコアを低下させる危険から冒険をせず、ゲーム内でも危険を犯さない保守的なプレイをする傾向がある。
FPS系ゲームで同じ武器と同じ戦術を何度も繰り返し使うプレイヤーがこの典型例だろう。彼らはそうすることでキルデス比を最適化できると考えている。しかし、成績型のゴールを与えられたプレイヤーは単純作業でのみ成績が向上する研究結果が出ている。
プレイヤーの性能型志向とバランスを取るには、デザイナーは技術習得型のゴールを積極的に作成して、そのようなプレイを推奨すべきだろう。プレイ技術をひとつずつマスターし、さらに熟練させる習得型のゴールには利点がいくつかある。
まず、習得型プレイヤーは間違いを受け止め、自分の技術を伸ばす為に難しいタスクを求める。習得型のゴールを設定されるとプレイヤーはより高い自信を持ち、効果的な攻略方法を考案して実行する。研究からも習得型ゴールを設定されたプレイヤーは複雑なタスクに対して高い成績を残す事も判明している。
このようなプレイヤー志向を育てる為にもデザイナーはプレイヤーの努力を褒め、挑戦を応援する実績を考案すべきだろう。ゲームはプレイヤーの間違えやミスを良くする為のアドバイスとフィードバックを与え、応援をするチャンスと考える必要がある。
実績の名称と言葉遣いはとても重要だ。Heavy Rainの「So Close...」(後ひと息)は難しい目標に向かって頑張った結果失敗したプレイヤーに与えられるトロフィーだ。これは努力を認め、さらなる挑戦を応援していると受け止められる実績といえる。
一方で Guitar Hero IIIの「Blowing It」(ブロウン・イット:任意の曲で10回失敗)は単にプレイヤーを馬鹿にしているだけと取られかねない。
ベストプラクティス:複雑な戦術や独創性を必要とする複雑なタスクには技術習得型
のゴールを、単純で反復練習を必要とするタスクには成績型のゴールを設定する。基礎プレイを学んでいる初心者プレイヤーにはなるべく記述習得型志向を推奨する。
本トピックの詳細に関する資料:
- Deci, E. L., & Ryan, R. M. (1985b). Intrinsic motivation and self-determination in human behavior. New York: Plenum.
- Deci, E. L., Koestner, R., & Ryan, R. M. (2001). Extrinsic rewards and intrinsic motivation in education: Reconsidered once again. Review of Educational Research, 71(1), 1-27.
- Eisenberger, R., & Cameron, J. (1996). Detrimental effects of reward: Reality or myth? American Psychologist, 51(11), 1153-1166.
- Lepper, M. R., & Gilovich, T. (1982). Accentuating the positive: Eliciting generalized compliance from children through activity-oriented requests. Journal of Personality and Social Psychology, 42(2), 248-259.
- Locke, E. A., & Latham, G. P. (2002). Building a practically useful theory of goal setting and task motivation: A 35-year odyssey. American Psychologist, 57(9), 705-717.
- Bandura, A. (1999). Self-efficacy: Toward a unifying theory of behavioral change. In R. F. Baumeister, R. F. Baumeister (Eds.) , The self in social psychology (pp. 285-298). New York, NY US: Psychology Press.
- Seijts, G. H., Latham, G. P., Tasa, K., & Latham, B. W. (2004). Goal Setting and Goal Orientation: An Integration of Two Different Yet Related Literatures. Academy of Management Journal, 47(2), 227-239.
- Winters, D., & Latham, G. P. (1996). The effect of learning versus outcome goals on a simple versus a complex task. Group & Organization Management, 21(2), 236-250.
Copyright (R) 2010 UBM Techweb
Part1 は以上です。Part 2、Part3 もお楽しみに!
翻訳担当メンバー:
米田 健(ヨネダ・ケン)
和菓子と抹茶を愛する翻訳・通訳で生計を立てているアメリカ、カルフォルニア州サンタクルーズ市在住のバイリンガル。
学費を苦心しつつ本業であるはずの大学で広く浅く様々な分野を無節操に受講中。専門は雑学。卒業は未定。
アウトドアと料理好きで、ハイキング、ランニング、ロードサイクリング、マウンテンバイク、ロッククライミング、サーフィンと地元の自然を日々楽しんでいます。次はクロスカントリースキーと雪山登山に挑戦予定。
ゲーム関係は、IGDA Japan i18n Force (Internationalization Force)にて活動中。好きなゲームはボードゲームとCo-opマルチ系です。オススメや連絡はツイッター@akatombo、またはkyoneda@ninjatranslator.netまでご連絡ください。
学費を苦心しつつ本業であるはずの大学で広く浅く様々な分野を無節操に受講中。専門は雑学。卒業は未定。
アウトドアと料理好きで、ハイキング、ランニング、ロードサイクリング、マウンテンバイク、ロッククライミング、サーフィンと地元の自然を日々楽しんでいます。次はクロスカントリースキーと雪山登山に挑戦予定。
ゲーム関係は、IGDA Japan i18n Force (Internationalization Force)にて活動中。好きなゲームはボードゲームとCo-opマルチ系です。オススメや連絡はツイッター@akatombo、またはkyoneda@ninjatranslator.netまでご連絡ください。
簗瀬 洋平(ヤナセ・ヨウヘイ)
北海道札幌市出身。埼玉県川口市育ち。電気通信大学電子情報学科出身。1996年にゲーム業界に入りデバッグのアルバイトからスクリプター、シナリオライターを経てゲームデザイナー。日本コンピューターシステムメサイヤ事業部、株式会社キャリアソフト、株式会社コーエーネット、株式会社日本コンピューターエンターテインメント、株式会社アトラス、株式会社ゲームリパブリックを経て現在株式会社サイバーコネクトツー在籍。シナリオ、システム、レベルの一体化とAIによるインタラクション豊かなゲームデザインを目指して開発をしています。
矢澤 竜太(ヤザワ・リュウタ)
1978 年生まれのフリーランス英日ゲーム翻訳者、IGDA Japan i18n Force (Internationalization Force) 代表。この他、CEDEC サポーターをしたり、#VGTransJP という名のゲームローカリ関係者向けリソース収集サイトを作ったりしています。 http://www.ninjatranslator.net/ twitter id : lye_
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