2011年3月24日木曜日

Gamasutra 記事翻訳:MADE IN JAPAN:西洋の視点から見た日本のゲーム開発

はじめに


以下は Gamasutra の Features として公開された記事のうち、原著者に翻訳・公開の許可を得られた記事を Internationalization Force のメンバーが翻訳したものです。

(翻訳担当の矢澤竜太は以前本記事を未承諾のまま公開しておりましたが、今回原著者と直接コンタクトを取り、許可を得られたため、ここに転載します)
  1. 原文の著作権等はすべて原著者に帰属します
  2. 誤訳、誤植等については当記事のコメント欄にてお知らせいただければ幸いです
  3. 本記事の公開を快諾してくださった Ryan Winterhalter 氏に深い感謝の意を表します
(翻訳担当: 矢澤竜太)



日本のゲーム業界の体制とデザイン手法は北米や欧州と大きく異なります。 また、日本のゲームスタジオには外国人社員がほとんどいません。マイノリティである彼らは、あの悪名高い長い労働時間や厳しい要求に加えて、文化的/言語的な違い、日本人上司や同僚からの要望とも向き合わねばなりません。 全体から見ると非常に少ない外国人労働者ですが、日本で働く彼らは日本式の業務文化、作業慣行、ゲーム開発に携わる経験を通じて、西洋的手法とは異なる考え方を発見し、身につけています。 基本的な文化/言語的な相違点に加えて、チーム編成手法や組織の上下関係、デザイン哲学などの相違点が、彼らの経験をより特殊なものにしています。
多くの人達にとって、「日本」とは「ゲーム」の同意語です。 「日本の貢献がなければ、今日のゲーム業界は今日のような姿ではなかったかもしれない」とは、Chris Kohler 氏の日本のゲーム業界に関する著書、「Power Up」の序文で Silicon Nights 社の Denis Dyack 氏が書いたことですが、 海外から日本に飛び込んできた彼らこそ、ゲーム業界の日本的側面に関する最も正確な視野を持っているのかもしれません。 今回は、そんな「ガイジン開発者」3 人のインタビューを紹介していきます。
JC バーネット(仮名)氏は東京の某社に勤務する英国人です。 彼のブログ「Japanmanship」では、日本のゲーム業界に関する彼の考えや日本文化の観察などが紹介されています。 日常生活や日本人のガイジンに対する態度に対する鋭い洞察力、そして(彼が「ゲームマンシップ」と呼ぶ)その態度に対する彼の応対方法が話題を呼び、ブログは日本に住む外国人の間で大人気となりました。また日本式業務についての簡潔で深みのある意見は、日本国外に住むゲーム開発者やゲームマニアの間でも評判となっています。
グレッグ・タバレス氏は業界歴 20 年のベテランです。 彼の携わったタイトルには、「Sid Meier's Pirates」、「Wild 9」「Crash Team Racing」、「Loco Roco」などがあります。 東京で 7 年勤務した彼は、最近米国に戻ってきました。
最後にディラン・カスバート氏。彼のキャリアは英国の Amiga development で始まりました。 任天堂の目に留まって横井軍平氏のチームに加わってからは、最終的には StarFox の制作にも参加し、米国と日本の Sony でも勤務しました。 2001 年、京都で Q Games を設立。最近、PlayStation 3 用カジュアルゲーム「Pixel Junk」を発表しました。

日本への道

「私の場合、日本で働きたいというよりは、生活したいという気持ちのほうが強かったと思います。 少しでもオタク要素があれば、東京に惚れこんでしまうのは簡単なことですから。 なので、私の来日のきっかけは東京に住みたい!という願望が基になっています。 日本で働く、という決断はそれに伴う必然だったんです」と、バーネットは言います。
最近の大学キャンパスでは、日本で働くことを熱望している学生を見つけるのは難しいことではありません。 ゲームへの興味が日本への興味と繋がっていることはよくあります。 いつの日か日本に住んでみたいと願う学生はたくさんいます。 「業界歴の長い開発者はもう少し現実的で、長時間労働の噂なんかを心配しますが、若い人やこれから業界入りを狙ってる人なんかの場合は、(日本行きを)とても熱望しています。 ちょっとした盲目的信仰ですよね。 みんな "宮本さんのチームで次のゼルダとか、ミリオンヒットするゲームの開発に携わるぞ!" とか考えるんですよ」
とは言うものの、好奇心に誘われて日本に来る交換留学生、英語教師、ゲーム開発者は毎年後を絶たない。 「僕が真剣に日本語の勉強を始めたのは 1995~1996 年でした。 1997 年の後半に失業していたとき、"うーん、反対する彼女や嫁、子供もいないんだから、本気で日本語を勉強したかったら日本に行ったほうがいいんじゃないか?" って思って。日本に行って日本語を勉強しよう、って決めたんです。 でも生活する手段がなかったので、どうしても日本で仕事を見つける必要があった」
日本に住むために日本行きを決定するガイジン開発者が多いのですが、彼はそうではありませんでした。 彼は日本に住むことを目的として来日したわけではなかったわけです。 「初めて来日したときは日本についての知識もほとんどありませんでした。 大急ぎでゲームボーイ用の 3D デモを作ってArgonaut Software 社に送ったら、任天堂から 2 週間後に京都に来てエンジニアにデモを見せてくれないかと誘われたんです。 京都とその時に会った日本の人たちの印象がとても良かったので、 その第一印象に従って、"ここで生活し、働いてみよう" って決めたんです」

企業ごとの違い

日本のビジネス文化は、西洋人にとって恐ろしいものとして知られています。 日本の生活と仕事の紹介本は、厳しい上下関係、融通の利かない業務手順、日本の諺「出る杭は打たれる」といった内容で埋め尽くされていますが、幸運なことにゲーム業界はまだ気楽な雰囲気があるようです。 バーネットによると「オジギやケイゴはあまりないし、スーツを着ている人もいないです。 リーダーや上司も肩肘ばった所以外では結構気楽にやってます。 笑い話もできるし、飲みに行ったりもします。 まあ僕はガイジンなので、それ以上うまくはやれないですが、同僚だってみんなが思っているほど堅苦しくはないですよ」
また文化的な違いは時に争いの種となるとカスバート氏は言う。 「日本人上司は間違いなく、西洋社会の上司よりも社員に干渉してきます。そういう風に干渉されるのは "先天的に (上司のほうが) 優れている" と言われているようで、西洋的な考え方からすると不快に感じることが多々あります。でもほとんどの場合、その上司は単に職場の協調性と規則を保とうとしているだけで、理由もその部下の作業効率が高いからなんですよね。 私はいまだかつて、何の理由もなく不機嫌な日本人上司を見たことがありません」
一方、日本で働く多数の社員にとって最大の問題と目されるのはその労働時間の長さだ。 日本の正しいエチケットでは、上司が退社するまで部下は退社してはならず、直属の上司が働いているうちは退社してはならないとされており、 このルールは、各人の仕事が終わっているかいないかに関係なく適用される。 タバレス氏は、このルールが日中の業務内容が「たるむ」原因だと言う。
「日本人は長時間働きませんよ」とタバレス氏。 「彼らはオフィスに長時間いるんです。これはほとんど文化的な要因によるものです。 日本では、米国学生の社交クラブで採用されているような「センパイ - コウハイシステム」が採用されています。 新入生、いわゆる新入りは基本的に誰かの下に配属されます。 その人物がコツなどを教える役目にあたり、その新入生に対する全責任を負います。逆に新入生はセンパイの言われたとおりに動く、というシステムです」
「風習として "センパイが全員帰るまでは退社してはいけない" というのがあるので、センパイや上司が退社するまでは帰らないようにしなければ、となるわけです。 このシステムは常に使用されているわけではないですが、一般的であるのは事実です。通常、これを守らない場合は出世も望めません。 日本の経済的状態のため、多くの企業では終身雇用が維持できなくなってきています。しかし彼らは、いまだに終身雇用が有効であるかのように振舞っているのです」とタバレス氏は続けます。
ここでバーネット氏の意見を紹介しよう。「古い慣習から抜け出すための武器として、自分がガイジンであることを利用することもできますね。ただ、実現するにはそれなりに時間もかかります。 私は入社したての頃は、同僚と同じ時間働くようにして、それから少しずつ短くしていきます。 周りの人に私の勤務時間に慣れてもらう時間が必要だからです。 私が一番に出社することが周囲の人に知れ渡れば、私が一番早く退社しても周囲に与えるショックが薄まります。 そしてもちろん、やるべき仕事は勤務時間内にすべて終わらせておくようにします。 仕事が滞っていたり、品質が一定の水準に達していなければ、私だって早く帰ったりしません」
「私の上司もまだ僕が日本的な勤務時間に合わせることを望んでいると思いますが、それでも最後には収まるものです。 実際、同僚にも "早く来て早く帰る" 僕のスタイルを取り入れるように仕掛けてみたりします。僕という前例があるのでそれに乗っかってしまえばいいと。 僕にとっても、仲間ができれば心強いですし」
日本の勤務時間と同じくらい、ゲーム業界の勤務時間も評判が悪い。 一日あたりの労働時間が長いとはいえ、1 日に働ける時間には限度がある。その点を考慮すると、日本よりも西洋のほうがひどい、とカスバート氏は言う。 「労働時間が一番長い国はまず間違いなく米国です。 3 年ほど前米国で働いていましたから当時のことは知っていますし、現地で働いている人の話でも、週末も休まず働いて平日も恐ろしく長い時間働いていると言います。 日本での仕事もかなりハードではありますが、さすがにそこまでひどくはありません」
勤務時間は企業によって大きく違うようだ。 バーネット氏のブログには連日徹夜する同僚のストーリーがあふれている一方、タバレス氏の次のような例もある「セガでは、平日朝 10 時から夜 11 時半まで働いて、社宅まで片道 1 時間 20 分かけて通勤していました。 それでも我慢できたのは、ひとえに日本に住めるという特権を心から楽しんでいたからですね。 2 度目の来日時に入った会社は、時折忙しい時期こそあれ就業時間としては一般的な範囲内でした」

言語と文化の問題

言語の壁は日本で働く外国人にとって問題であることは間違いない。 長年日本に住み国籍も移していても、レストランで注文も出来ない、という人も珍しくない。 米国防衛省では、日本語をレベル 4 の言語(韓国語、中国語、アラビア語と同じ)と分類しており、”限定的な業務に必要な習熟度” に達するにも 63 週間の集中的な学習が必要と説明している。一方、レベル 3 のベトナム語、タイ語、ロシア語などの言語は 43 週間だ。
タバレス氏によれば、言語の壁に適応しなければならないのは日本人側と外国人開発者の両者であるという。 「日本人スタッフは、私の日本語スキルが高くないとすぐに分かったようでした。 でも私のプログラミングスキルは高かったので、すぐに他の人にはできない仕事が割り当てられるようになりました。 チームには英語が話せるスタッフが 1 名いてサポートしてくれましたが、彼には私の日本語が上達しなくなるので可能な限り英語で話さないで欲しいとお願いしました。 かなりのコミュニケーションは絵を使って行いましたね」
カスバート氏もまた、来日当初は言語の壁に悩まされたそうだ。 彼の場合、チームの対応は次のようだったという。「日本人スタッフが英語を覚えたんです!宮本さんの英語は、ほとんどスターフォックスチームから覚えたようなものですよ。 ただスターフォックスの開発も終わりに近づくと、彼らの英語よりも私の日本語の上達のほうが速くなってきていたので、スターフォックス 2 のときはすべてのコミュニケーションが日本語で行われました」
日本語を第二言語として学ぶ者にとって、丁寧さや敬意を示す動詞の語形変化と語彙、すなわち「敬語」は最大の難問のひとつだ。そして職場においては、敬語こそが優先的に使われる。 社内でのコミュニケーションには丁寧語、上司やクライアント、ユーザーなどに大しては尊敬語が使われる。 カスバート氏は次のような順で日本語を学んだという。「僕の場合、最初に標準的な口語を覚えてから、徐々に敬語や丁寧な言葉を覚えていきました。 普段はみんな口語で喋っているから敬語より覚えやすかったし、敬語だと硬かったりよそよそしかったりするので」
一方で日本人は、たとえ敬語が求められている状況であっても、外国人には敬語を話すことを求めない傾向がある。 実際、日本人は外国人=日本語がまったくしゃべれないと思い込んでいる、と非難する外国人は多い。 さらに悪いことに、管理者が「日本語がわからない」という欠点を不当に利用する例がある。 バーネット氏は言う。「最初私の日本語が酷かった頃、"日本語ができない" ということは、上司がいつでも使える具合のいい逃げ道になっていました。 当時は、何を聞いても、何を頼まれても、どんな問題があっても、"でも君の日本語力では…" というセリフで片付けられてしまっていたんです。 これを止めてもらうには、徹底的に抗議して退職までほのめかす必要がありました」
日本人は外国人に対して英語以外の言語で話しかけにくいと感じることがある。 これは外国人社員にとってみれば不運なことで、彼らの日本語スキルはそこで頭打ちになってしまう。 カスバート氏の言葉を紹介しよう。「日本の人たちは英語で話そうとしますが、とにかく自分に自信を持ってあきらめないことです。そうでなければ、あなたの日本語力はあっという間に上達しなくなるでしょう」
違いはまた、言語以外にも存在する。 一部の企業では、(西洋とは)全く異なるデザイン感覚が採用されている。 カスバート氏の場合、これが特にはっきりしていた。ヨーロッパでは NES(Nintendo Entertainment System:ファミコン)がポピュラーではなく、英国で日本製ゲームに触れる機会があまりなかったためだ。 彼のこの点は、スターフォックスに長所として反映されていると言える。このゲームにより、任天堂はヨーロッパでの活動を開始したからだ。 「任天堂の細部にこだわる姿勢には本当に驚かされました。ゲームデザインの最も小さい要素にさえこだわり抜くんです。 おかげでとても楽しんで仕事ができました。 僕自身もディテールのことになるとトコトンこだわります。 1 ピクセルを納得いく場所に置くために何時間もいじくり回したりしますから。 なので任天堂チームで働いているときに自分と同種の人と何人もめぐり合えたし、それで日本を愛す気持ちを一層強くなりましたね」
また、報道機関に対する態度も異なる。 開発者にとっては、広報やマーケティングにうるさく言われることなく設計する自由がある、とバーネット氏は言う。「この点は、間違いなく日本のゲーム開発の好きな点ですね。広報、報道関係、マーケティングのことは開発のかなり後半になってから始まります。 広報、営業、報道機関側は、なんとか情報を入手しようとするのではなく、こちらからの連絡を待つような感じです」

欧米の視点

日本のゲーム業界で働く外国人は、この業界を独自の視点で捉えることができる。視点を自分の文化を別の視点から見ることができるからだ。 日本のゲーム人口が縮小するに伴い、海外市場の重要性は日ごとに増してきている。 しかしバーネットによると、重要性が増しても彼らが外国人同僚にアドバイスを求めるということはないとの事だ。 「あるときプランナーから、なぜ名前入力スペースを 5 文字以上も確保するんだ?と苦情を受けたことがありました。 ローカライズのために必要だ、というのは彼もなんとなくは分かっていたみたいだったのですが、彼の反論は要するに、"今作っているのは日本語版なんだから 後でローカライズ版を作ればいいじゃないか" というものでした」
「こういう問題についての計画が全体的に足りていないんです。 焦点をメイン市場に絞り、ローカライズ版は後から対処する、という手法には必ず問題が付きまといます。 これは想像に難くありませんが、後からローカライズする場合、修正時に途方もない問題がどんどん発生します。 テキスト表示幅が全然足りない、テキストを表示するテクスチャが多すぎる、どれもこれもハードコードされていて処理を自動化できない、などなど。多くの開発者は、日本よりも規模の大きい海外市場の重要性を認識しているとは思いますが、ではそれに対して何が求められているかを理解している人は本当に少ないと思います」
すべての開発者が上述の意見に当てはまるわけではないようだ。 カスバート氏は言う。「任天堂のプロジェクトでは、最初にローカライズについて考え、別言語のグラフィックスやテキストを差し替えられるように心がけていました。 このほうがローカライズ段階に移ったときに作業負荷が軽くなりますからね」
海外市場向けのゲームを開発する上で問題となるのは、欧米でヒットするのがどのようなゲームなのかを日本の開発者が知らないという点ではないだろうか。 日本人は日本製ゲームの魅力を充分に楽しんではいたが、日本の市場はこれまで欧米に対して開かれたことはなかった。"Gears Of War" と "Final Fantasy" の両方が好まれるようになった今の日本市場に、開発者たちが対応していくにはさまざまな課題があるだろう。 カスバート氏はこう言う。「ゲームのスタイルは、見た目にはアメリカ的、西洋的になります。 (西洋での)テーマはより気骨のあるリアルな方向に進む傾向がある一方で、日本のゲームはより抽象的でアニメ的です。欧米産のゲームは平均的な日本のゲーマーの好みには合わないでしょう。 もちろんクラッシュバンディクーのような一部の例外はありますが」
欧米産ゲームが日本市場で受け入れられてこなかった理由のひとつにローカライズの問題がある。 タバレス氏は言う。「ローカライズというのは、単に字幕をつけて UI テキストをいじればいいというものではありません。 英語版をプレイするゲーマーと同じ没入感を提供するには、音声が日本語化される必要があります。 ゲーム中で使用される歌があるなら、それらも日本語化されなければなりません。 ゲーム内で放送されるラジオに CM やジョーク好きの DJ が出てきてゲームに彩りを添えているなら、それらがすべて日本語化されない限り、日本人プレイヤーはゲームの一部を体験できないことになり、結果そのゲームの評判にも影響が出ます。別の地域からゲームを持ち入れるとき、このことがノータッチのままであることが多い」
だが変化は、ゆっくりながら起きているようだ。 「日本ではかつて、日本のゲームのほうが優れているという考え方がありました。 しかしこの数年、ナンバー 1 ゲームはずっと欧米産です。 日本はもはや技術的にもトップではなくなったことに加え、欧米のチームがゲーム開発の負担をより軽くするシステムを生み出したのを見て、日本の開発チームも注目しだしたようです」とタバレス氏は言う。
これにはバーネット氏も同意する。「文化的に鼻にかけている雰囲気も若干ですがあります。 一部の日本人は、本気で(訳注:この本気は欧米産ゲームの現状を知らず、過去の大味なイメージを持ったままなので本気で、という意味です)欧米産ゲームを見下しています。多くの欧米人と同じように、日本のゲームのほうが数段優れていると思っています。 もちろんこれはナンセンスです。 私の同僚は時々、欧米産ゲームのクオリティを見て驚くんです、こんなのできるわけないと思っていた、と言わんばかりに」
欧米のゲーム開発がよりパワフルで最先端のものであるということが明らかになるにつれて、彼の言うような見解は珍しいものになりつつあり、日本側としても無視できない状況になってきている。バーネット氏は続ける。 「僕の同僚にも欧米産ゲームが好きな人は多いですね。 パブリッシャーは未だにゲーム輸入には消極的ですが…。GTA(グランドセフトオート)が日本に来るまでどれだけの年月がかかったか知っています? まあ、この分野でも変化は起きつつあります。伝統のそれと同じように、非常にゆっくりではありますが」

求められる変化

日本では、変化は非常にゆっくりと起きる。 中央省庁の財務記録は未だに紙の台帳と鉛筆で記録されているという話もある。 民間企業はもう少し対応が早いとはいえ、バーネット氏の次の発言のとおり、変化に対する抵抗は未だに残っている。「日本企業は時代の流れに合わせて変化していくためのアクションが極端に遅いです。 従業員の権利や性の平等といった問題でさえ未だに解決されていないのです」
日本で働く外国人にとって、最大の問題は給与かもしれない。 バーネット氏のブログによると、アーティスト、プログラマーの給与水準は欧米と比較して低い。 タバレス氏は、日本企業は新卒を安い給与で雇用する、と言う。 セガやソニーに入社するプログラマーの年収はおよそ 300 万円で、 トッププログラマーの年収がだいたい 600 万円である。 日本企業がそのような方針を採用しているために、日本企業では個人の持つ経験の価値が軽んじられる。
「経営者にとっては幸運、社員にとっては不運なことに、彼らのほとんどは日本語しか話せない。このため基本的に働く場所が日本のシステムの中にしかないんです。 英語を身に付けることに成功した人たちには、より良い給与を求めて日本を去るという選択肢がありますが、そうでない人には選択肢がありません。だから外部からの圧力ではこのシステムは変わらないんじゃないかとも思うんです」
ゲーム業界自体がめまぐるしい変化を起こしている以上、日本企業も変わる必要がある。 だが現状を見る限りでは、それも望めないようだ。 給与、労働時間、実績に対する報酬などの問題は引き続き日本の開発者たちを苦しめるだろう。 「"新卒を安く買い叩く" 問題には全く進展が見られませんし、変わるかどうかも怪しいものです。青色発光ダイオードの発明者は日本を去りましたが、その理由は、企業が彼の発明に対して充分な報酬を与えなかったことに対する怒りからだということです。日本企業は報酬を与えなさすぎる。先述の例は、日本企業がやり方を変えないなら、賢い人は国外に出ろ、と言っているようなものですよね」とはタバレス氏の言だ。
変化の遅さや、そもそも変化が起きていないことと比較できるほど顕著ではないが、この業界にも進歩の兆候が見られつつある。 「まだまだ道のりは長いですが、私も実際にいくつかの変化を目の当たりにしました」タバレス氏は言う。 「例えば、ミドルウェアの導入なんかは私がいたときに起きた変化でしたね。 バージョン管理システムなんかもそうです。 何でもハードコードする手法からレベルエディタなどのツールを使うようにもなりました。内部からの圧力で変化を起こすことも可能なんです。 もしある企業が各人の経験に対して正当な給与を支払うようになれば、他の企業も経験豊かな人材がそちらに流れないように給与を見直すことになるでしょう」
最後に、ゲームの三大地域で実際に生活し、働いたことのあるカスバート氏のまとめをご覧いただこう。
  • 「英国は "パブ文化" の国と言えるでしょう。びっくりするほどグウグウノロノロしているけど、いざ腰をすえると、仕事はとてもちゃんとやるしスキルも高いです」
  • 「米国は "企業文化" の国です。会社の規模に関係なく、各人が機械の歯車となります。このため企業や財務に対する責任は非常に少なくなります。また人々は最高の賃金、最高の機器、最高のソフトウェア、すべての "最高" を求めます ― それを使う、使わないは置いておいて。 このため仕事自体への責任感がとても大きく、非常に頭の回転が速い勤勉な人たちもいます。 ただ、駆け引きとか噂話、ライバル意識なんかが多すぎると感じます」
  • 「日本のゲーム開発文化は、未だに少し "サラリーマン" 的ですね。多くを語らないことで責任を回避しますが、製品が完成するまで絶え間なく努力し続けます。 (喋らない文化が災いして)情報共有がうまくいっていないせいで、日本のゲーム業界は技術的な発展が滞っています。 日本人は納得できるまでディテールにこだわり続け、場当たり的なもの、荒削りなもの、あるいは "オオザッパ" なものを極力排除しようとします」

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